「いじめ」は殺人になる「いじめ」による子どもの自殺のニュースは、あとを絶たない。しかし、その子の「自死」がいじめが大きな原因であったことは、 本人が親など周囲の人に話していたか、遺書を残していなければわからない。 多くの子は、屈辱や辛さ、親に心配をかけたくない、 親に自分がいじめられるような子だと思われたくないという板ばさみの中で苦しんだ挙句、 「楽になりたい」という一心で、この理不尽で希望が見えない世界から脱出を図るのだろう。 「いじめ」が大きな原因による自殺は、ニュースになったりする何十倍もあるのではないかと思う。 先月、一人の若者が命を絶った。 中学時代のいじめ、それを担任に相談したことから、 「チクッた」ということで一層陰湿なイジメが続くようになる。 相談した担任は、いじめられる本人にも問題があるかのような言動をし、 とどめの一言のように「殴る方の手も痛いのだ」と言ったとか。 もちろん、いじめの防波堤には全くならず、結果としての不登校。 両親は「いじめ」があることは息子から聞いたが、 その詳細については彼が大人になってから聞いて、そのあまりの陰湿さに驚愕したという。 それでも生真面目な彼は、傷ついた心を抱えながら「適応指導教室」に通い、 通信制の高校に進学する。 それでも、心の傷は想像以上に深かったようで、対人恐怖から重症の「鬱」となり、 拒食症も加わり、自殺念慮も強くなり、寝たきり状態→少し元気→自傷→自殺未遂などを繰り返し、 家族は必死で彼を支え続け、心配し続けてきた。 それでも、大学進学の時期には「社会福祉士」への希望を持つようになり、 最初は「視線恐怖」から通学のバスにも乗れず、一年間は徒歩で一時間以上通学。 しかし、本当に辛抱強い努力家で心優しい彼は、 様々な挫折感や苦労の末に大学を卒業し、念願の資格も取った。 彼の夢は、「一日も早く自立して、心配かけ続けた両親や兄を安心させたい」ということだったと思う。 私は、その経緯を母親からずっと聞いていた。 母親自身も、生きた心地のしない不安の日々を繰り返すことや、 遠方に住む親の病気や介護などなどのストレスも加わり、 気がつけば「鬱」の治療を受けるようになっていた。 大学を卒業し、福祉施設に就職したと聞いた時、私の心には不安もよぎった。 しかし、本人が何度も何度も就職試験に失敗し続けて落ち込んでいたことを知っていたから、 「夢だった自立」に向けての一歩を踏み出せたことを、母親といっしょに心から喜んだ。 しかし…… そこでも、あの中学時代のイジメを想起させる状況が起きた。 彼はとうとう耐え切れず、退職することになった。 そのことは、傷ついてまだまだ癒えていない心を深く抉ることになったのだろう。 そして、先月彼は、発作的なのだろうが、 「お母さん、今までありがとう」という言葉を残し、 母親の目の前でこの世に別れを告げた。 退職し家に戻ってから、毎晩のように中学時代のイジメの夢を見て、 うなされ汗びっしょりになって目覚めることが続いていたという。 まさに今現在、イジメを受けているような感覚が続いていたのだろう。 深く傷ついた人は、その傷が完全に癒えない間は、少しのことでも傷つきやすくなっている。 健康な人には「そんなことで?!」と思うようなことで傷つき、 それが怒りとなったり妄想となったりすることもある。 頑張り続けて、人を責めることなく、自分の限界まで耐え続けた心優しい若者は、 命のエネルギーを使い切ったようにこの世を去った。 少なくても、私にはそう思える。 私は、極力プライバシーに関わることはブログには書かないようにしている。 しかし、彼のことだけは書かずにいられない。 彼を傷つけた同級生、無神経で配慮のない当時の担任、 イジメに気がついていても、知らぬふりをして彼を助けられなかった傍観者のクラスメイトは、 彼がそのことによってどれだけ傷つき、 その後どれほどの死に物狂いの努力を限界まで続け、 過去のイジメの記憶に苛まれそれから逃げるように死んだことを知らずに、今日も生きているのだろう。 できれば彼らに直接、 「貴方達の心無い行為が、このようなことになったのだ。貴方達が殺したも同じだよ」 と言いたいくらいだ。 私はそのように彼らを糾弾したい心をこのブログにぶつけている。 そして、一人の若者が精一杯生きたということを知らせたい気持ちで書いている。 彼は決して弱くなんかない。 自分の気質や能力全開で困難に立ち向かい、闘い、そして自分の夢をまがりなりにもかなえ、 その命を生き切って旅立ったのだ。 このような純な資質を持った若者が、もしも「イジメ」という理不尽な経験をしなければ、 どれほど世の中の光となっただろう。 それを思うと、私は悔しくて悔しくてならない。 本当によく頑張ったね。 私はあなたを忘れない。 そしてこれからは、イジメというものがどれほど残酷なものなのか、 機会があるごとに貴方のことも含めて話していきたい。 本当にお疲れさまでした。もう頑張らなくていいよ。 今はご両親もお兄さんも、様々な後悔と、寂しさと、苦しさと戦い続けているけれど、 何とかそれを乗り越えられるように、これからは貴方が守ってあげてくださいね。 (2011年10月25日 ) |